■ 本格的デビューを果たすまでの道のりは厳しいものだった
デビュー曲である「雨に濡れた慕情」は、今でこそ多くの音楽家達が
ジャズの香り漂うこの曲を絶賛していますが、大ヒットとはならず
中ヒット止まりでした。
また、ちあきなおみのこの曲でのデビューは、決して平坦な道のりではありませんでした。
レコード会社のオーディションではフレッシュさが欠けるという事で
すんなり合格はできなく、「ポップスが歌えるようになるなら」と
レッスンをつけるのを条件に保留という形になりました。
ジャズも歌いこなし、着流しを着て刀を持っての立ち回りもやってのけ、
聴く人を唸らせるコブシの効いた演歌を歌ってきた長年の前座歌手とし
てキャリアが仇となったのです。
その頃の歌謡界は演歌よりもポップスが求められていました。
何せあの美空ひばりが、ミニスカートをはいてゴーゴーダンスを
踊りながら歌っていた頃ですから。
前座歌手がデビューを果たすには時代に合わせるしかなかったのでしょう。
それからというもの作曲家・鈴木淳氏の元で「演歌禁止命令」を守りながら
1年半という期間猛レッスンを受け、氏の「演歌のこぶしが取れた」
というお墨付きをもらい「雨に濡れた慕情」でようやく
念願のデビューを果たしたのです。
この曲を歌うちあきなおみの歌声は、何年もプロ歌手でやってきた凄みが感じられます。
新人歌手としてデビューする曲というより、長い間ドサ回りをやってきた彼女の
集大成とでもいうのでしょうか、時代やお客に媚びることなく
「私はこうゆう歌手なんだ!」というような、「玄人受けする」曲です。
こんな雰囲気のある曲、増してちあきなおみの魅力、歌唱力が味わえる曲が
何故大ヒットしなかったのでしょうか・・。
■「雨に濡れた慕情」こそが本来の彼女の姿
そう考えるともしかしてこの曲は時代の要求するトレンドより
違う方向に向いていたのかもしれません。
大人びた歌詞にプロの表現力。デビュー曲でありながらも既に完成されたその歌声は
初々しいデビュー曲とは程遠いそのギャップに戸惑ってしまうほどです。
16万枚売上の中ヒット止まりというのは、伊東ゆかりの「小指の思い出」で
100万枚の大ヒットを仕掛けた鈴木淳氏からすると不満足な結果
だったのかもしれません。
でも、無理に演出したり、媚びたりしていない、本来のちあきなおみの妖しげな魅力が
たっぷり満喫できる名曲です。
だから今現在も「ちあきなおみの名曲」の中でも高いポジションを
保持しているのでしょう。
この曲でちあきなおみをデビューさせてくれた作家先生達に感謝します。